具体的に書いてみる 〜思考の整理をするには〜

はじめに

世の中には、頭の中だけで情報整理ができる人もいますが、それはごく一部かと思います。大半の人は、自分の考えを可視化しない限り、曖昧なままになりがちです。
文字として「具体的に書き出す」ことにより、自分が何を考えているのか、どこが不明瞭なのかが明らかになります。

あまりないとは思いますが、たとえば、若手エンジニアが開発計画を頭の中で検討していたとしても、実際の工程に抜け漏れが生じたり、他部署との連携に支障をきたすなど、当然ながらうまくいくとは考えられません。しかし、書き出してスケジュールやタスクの棚卸しをすれば、実行可能性の検討や優先順位の調整などが容易になります。

この「思考の見える化」は、新人研修におけるビジネススキルとしても非常に有効です。自分の頭の中だけに頼らず、情報を文字で表現する訓練を積むことで、課題発見力や論理的思考力の向上につながります。

このコラムでは、「書くこと」の重要性と効果について、若手育成の視点から解説し、企業の人事担当者や経営者にも、これをどう新人研修やビジネススキル向上の施策に組み込めるかのヒントを提供します。

第1章 なぜ「書くこと」が重要なのか

「頭の中だけで考えがまとまらない」という悩みは、若手エンジニアにとって非常に身近な課題です。特に、新人研修の段階では、情報のインプット量が急激に増え、自分の理解や整理が追いつかずに混乱するケースも少なくありません。

また、自分の考えを言語化できず、結果的に上司との認識齟齬などが発生する場面をよく見かけます。


そこで効果を発揮するのが、「書くこと」です。頭の中で何となく理解したつもりになっていることを、あえて具体的に書き出してみる。これによって、思考が可視化され、自分の理解度や考えの整理状況がはっきりします。

ベテランのエンジニアや成果を上げている人たちほど、日々自分の考えを「書く」ことを習慣にしており、行動の指針や改善点を客観的に把握する力を持っています。

「書くこと」は、単なる記録やメモではなく、自分の思考を外に出すプロセス、すなわちアウトプットの第一歩です。そしてこのプロセスが、ビジネススキルの根幹を支える「論理的思考力」や「コミュニケーション力」の育成に直結していきます。


第2章 書くことで得られる3つの効果

2-1. 頭の中のモヤモヤを整理できる

「何から手をつければよいかわからない」「考えがまとまらない」──こんな時こそ、頭の中にあることを書きだしてみましょう。自分が今感じていること、悩んでいること、やるべきタスクなど。

すると、漠然としていた問題が具体的な課題として浮かび上がり、優先順位や対応方針も自然と見えてきます。思考が整理されることで、不安や焦燥感も軽減され、冷静な判断ができるようになります。

2-2. 新たな気づきが生まれる

考えを文章にしてみると、自分の中でも気づいていなかった矛盾点や抜け漏れに気づくことがあります。これは、書くという行為を通して「自分の思考を俯瞰できる」ようになるためです。

ある脳科学者が「人はもっと自分の頭が悪いと思った方がいい」と述べていました。謙虚な視点を持ち、自分の考えを疑いながら書くことで、思考が洗練され、質の高いアウトプットが可能になります。

2-3. 他者に伝える準備になる

書くことは、自分自身の思考整理にとどまらず、他者に伝える準備にもなります。特にビジネスの場では、「自分の考えを論理的かつ簡潔に伝える力」は欠かせないビジネススキルです。

書き出した内容をもとに上司やチームメンバーと共有することで、認識のズレを防ぎ、意思疎通を円滑に進めることができます。これは、若手育成の観点でも非常に重要なトレーニングになります。


第3章 実例に学ぶ「書くこと」の効用

3-1. 計画・実行の精度が上がる

あるプロジェクトの計画について示します。頭の中では「おおよその流れは掴んでいる」つもりでも、実際に「誰が、いつまでに、何を、どのように実施するか」を書き出してみると、曖昧な点が浮かび上がります。
書き出すことで、期日が明確になり、関係者とのすり合わせもスムーズになります。

若手エンジニアにとっては、こうした計画を文書化する練習が、仕事全体の見通しを持つ力=ビジネススキルの土台となります。

3-2. 優先順位の判断がしやすくなる

複数のタスクを抱えたとき、まずすべきことは「書き出すこと」です。
「この作業のインプットとなる資料が揃うのはいつか」「どのタスクを先に終わらせれば後が楽になるか」など、時間軸や依存関係を明文化することで、自然と優先順位が明らかになります。

メール対応、資料作成、レビュー、ミーティング準備など、すべてをリスト化し、「どれが他のタスクの前提になるか」「期限が最も厳しいのはどれか」を整理します。このような手順を踏むことで、効率よく仕事を進めるための順序が明確になります。

このプロセスは、単なる効率化ではなく、自分で判断し、能動的に動ける人材への第一歩です。


第4章 書くことを習慣化する方法

4-1. 日々のアウトプットを続ける

以下のポイントを意識することで、若手エンジニアでもすぐに取り組むことができます。

  • 日報に目的と気づきを書く:単なる業務記録だけではなく、「今日の目的」「そこから得た気づき」を必ず一文添える。
  • 同僚や上司と共有する:書いたものを話題にし、フィードバックを得ることで、考えの精度が上がる。

4-2. 書いたものを読み返す

定期的に振り返る時間を確保する:週に1回、自分の書いたメモやノートを読み返し、改善点や次のアクションを考える。

このように、書きっぱなしにせず、定期的に自分のメモや日報を振り返ることで、学びが何倍にもなります。そこには、自分でも驚くような成長の証や、思いがけない気づきが詰まっています。

企業側としても、新人研修で「振り返りの時間」を定期的に設けることで、自己評価力や改善力を育むことができ、組織としての人的資本を強化することができます。

若い人には、必ず実施していただきたいことの一つです。


第5章 人事担当者・経営層への提言

若手育成において、「書く力」のトレーニングは、極めて実用的かつ再現性の高い教育手法です。特に、技術スキルだけでなく、ビジネススキルも兼ね備えたエンジニアを育てるためには、「考えて終わり」ではなく、「考えたことを形にする」プロセスが不可欠です。

企業の人事担当者や中小企業の経営者・管理者の方は、新人研修やOJTの一環として、「書いて思考を整理する」トレーニングをぜひ導入していただきたいと思います。

たとえば、以下のようなテーマでワークを実施するのも有効です。

  • 1週間の振り返りと課題の明文化
  • 成果報告書の作成と共有
  • 自己評価シートの記述式導入

こうした仕組みを通じて、若手社員は自らの考えを言語化し、伝える力を磨き、組織の中で存在感を発揮していくことができます。


おわりに

思考を行動に変える第一歩として、書き出してみましょう

「書くこと」は、誰にでもできるシンプルな行動ですが、その効果は計り知れません。ただ頭で考えているだけでは、実行力にも説得力にもつながりません。

若手エンジニアの皆さんへ。

あなたの中にある思い、考え、計画は、「書く」という行為を通して初めて他者と共有できるものになります。そして、それが信頼や評価、さらには自身の成長へとつながっていくのです。

「書いてみる」「言葉にしてみる」。それは、技術力と同じくらい重要なビジネススキルであり、未来のキーパーソンとなるための一歩でもあります。

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この記事を書いた人

森田 浩史 代表・ビジネススキルアドバイザー、日立グループで38年間ITエンジニア・マネージャーとして培った経験を若手に提供
若手育成の専門家として、中小企業さまを中心にご支援させていただきます。