自分で考えるか、人に聞くか〜思考力の育成と効率化〜
すぐ人に聞いてしまう人はいませんか?
はじめに
新人研修や若手育成の現場で、「すぐ人に聞いてしまう若手社員」に頭を悩ませた経験はないでしょうか?
仕事を進める上で、何か分からないことに直面したとき、まずは自分で考えるのか、それともすぐに誰かに聞くのか。この違いは、エンジニアとしての成長だけでなく、ビジネスパーソンとしての基礎力にも大きく関わります。この判断ひとつで、その人の将来の成長スピードが大きく変わってきます。
私の部下に、まさにこの「すぐ聞くタイプ」の若手エンジニアがいました。たとえば一つの作業が終わると、「これはどうやるのですか?」と聞き、次の作業でもすぐに「これはどうしたらいいですか?」と矢継ぎ早に質問してくる。正直なところ、最初は驚きましたし、どう育成すべきか非常に悩みました。
もちろん、質問することが悪いわけではありません。しかし、こうした姿勢を放置してしまうと、主体性や思考力が育たず、長期的には企業にとっての大きなリスクにもなりかねません。
このコラムでは、「自分で考えること」と「人に聞くこと」のバランスをどう取るかを通じて、若手育成における思考力の養成と、業務効率化の両立について考察します。
1. 自分で考えるべきこと
企業における若手育成の第一歩は、「まず自分で考える習慣」を身につけさせることです。何でもかんでも人に聞くようでは、思考力が育たず、いつまでも自走できない人材になってしまいます。これはエンジニアに限らず、すべての職種において言えることですが、特にエンジニア職では「問題解決能力」が極めて重要です。
何でも人に聞いていては、自分の頭で考えることがどんどん少なくなり、歳をとっていなくてもぼけてしまうのではないかと心配に思いませんか?やはり、まずは自分で考えることが重要です。
この言葉が示すように、「まずは自分の頭で考える」という姿勢は、新人の頃から身につけるべき習慣です。特に、若手のうちは「考える癖」がついていない場合、企業側が意識して育成の中で促す必要があります。
「考える力」を養うことは、思考の柔軟性や判断力の向上にもつながります。では、どうやって「考える」習慣を育てるのでしょうか。
第一に、「わからないことに直面したときは、すぐに人に聞くのではなく、まず自分で調べてみる」という姿勢を促すことです。インターネットや書籍など、情報源は豊富にあります。
調べる過程で得られる知識は、単なる答え以上に価値があります。検索力や情報の取捨選択といったビジネススキルも自然と身につきます。
また、複数の情報源を比較検討する習慣も、エンジニアには欠かせません。最低でも2つ、3つのソースを調べるクセをつけましょう。そして、調べた内容を簡潔にまとめる。このプロセス自体が学習であり、思考の整理につながります。
人に聞く場合も、下調べして、ある程度知識がついた状態で質問をするとより深い知識を得ることができます。さらに、相手から得られる回答の質も高くなります。たとえば、「○○についてAとBの2つの方法があると書かれていたのですが、どのような理由でどちらを使うのがいいですか?」といった質問は、単なる「やり方を教えてください」よりもはるかに有意義です。
このような下準備を経た質問は、受ける側も「きちんと考えた上で聞いている」と感じ、真剣に対応しやすくなります。まさに、育成対象者自身の姿勢が、その後の学びの質を決定づけるのです。
2. 聞いてしまおう!
一方で、何でもかんでも「自分で考えるべきだ」という姿勢は、非効率になることもあります。特に業務の中で頻繁に出てくるツールの使い方、たとえばExcelの操作や社内システムの仕様など、「調べるより聞いた方が早い」ことも多々あります。
逆に効率化を考えた場合、自分で考える必要がない場合もあるかと思います。EXCELの使い方など、ちょっと横の人に聞いてみるのは良いのではないかと思います。
このような場面では、経験豊富な同僚にさっと聞くことで、数十分の時間を節約できる可能性があります。それがそのまま「仕事の効率化」につながるのです。
ここで、一言。仕事の効率化は会社にとってどんな意味がありますか?効率化とは、作業時間が短くなるということです。すなわち、コストが減少し、会社の利益に影響を与えます。会社には多くの人が働いています。この効率化がN倍となり大きな利益となって恩恵をもたらすのです。
人に聞くことのもう一つのメリットは、コミュニケーションの促進です。新人研修や若手育成の観点から見ても、他者との対話を通じて関係性が深まり、「誰が何を得意としているか」がわかるのは、仕事にとって大きなプラスです。
困ったときに周囲と関わることで、社内における「人的ネットワーク」が広がります。「誰に何を聞けばよいか」がわかるようになると、業務の質もスピードも飛躍的に向上します。これは単なる知識の問題ではなく、組織で働く力=ビジネススキルの一つでもあります。
周囲の人と会話をするだけで、誰がどんなスキルを持っているかわかります。「それだったら、あの人が詳しいよ。」とかコミュニケーションが広がることもあります。
このように、質問することが新たな学びや人脈の広がりにつながることもあります。時には、少し話が脱線することで、思いもよらぬ知識や発見を得ることすらあるのです。
3. 結局どちらがいいのか?
それでは、最終的に「自分で考えるべきか」「人に聞くべきか」の判断基準はどこにあるのでしょうか?
答えはシンプルです。
まずは自分で考える。そして、「考えるべきか、調べるべきか、聞くべきか」を判断する。
このプロセス自体が、若手エンジニアにとって最も大事な「判断力」の訓練になります。新人研修でも、「考えること」を飛ばしてすぐに「聞く」ような姿勢は見直すべきです。
そしてもう一つ重要なことは、人に聞く場合に気遣いができるか。聞く相手も仕事をしているわけです。
この視点は、ビジネススキルとしての「タイミングを見る力」「相手への配慮」にもつながります。たとえ質問内容が妥当であっても、相手の忙しいタイミングを見計らえないようでは、チームとしての信頼関係を損ねかねません。
若手育成の現場では、単に「調べる力」「聞く力」だけでなく、「質問する場面の見極め」「相手の状況への配慮」といったスキルも重視すべきです。これは、技術以外の重要性を理解させる絶好のテーマとなります。
おわりに
若手エンジニアの育成において、「自分で考えるか、人に聞くか」という問いは、単なる作業効率の問題にとどまりません。それは、思考力・判断力・対人スキルといった、ビジネススキルの中核にかかわるテーマです。
企業の人事担当者や中小企業の管理職の方々にとっては、単に業務がこなせるかどうかではなく、将来を見据えた自立型人材の育成が鍵となります。自分で考える習慣を身につけさせながら、必要な場面ではうまく人に聞ける。その両輪を持つ人材こそ、これからの組織を支えるエンジニアになっていくでしょう。
思考と効率、個とチーム。
そのバランスを見極められるような若手育成の仕組みづくりが、これからの企業に求められているのです。
東京都内の企業様へは直接研修詳細のご説明に伺います。
また、東京都外の企業様へはZoomにてご説明させていただきます。
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この記事を書いた人

森田 浩史 代表・ビジネススキルアドバイザー、日立グループで38年間ITエンジニア・マネージャーとして培った経験を若手に提供
若手育成の専門家として、中小企業さまを中心にご支援させていただきます。